| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-151  (Poster presentation)

里山環境における耕作放棄による植生の変化が訪花性昆虫類の生息に及ぼす影響
Effects of Vegetation Changes from Agricultural Abandonment on Pollinator Habitats in Satoyama Landscape

*武藤光紀(新潟大学・自然科学), 岸浩史(新潟大学・自然科学), 坪川紬生(新潟大学・理), 鎌田泰斗(新潟大学・農), 関島恒夫(新潟大学・農)
*Koki MUTO(Grad. Sch. Sci. Niigata Univ.), Hirofumi KISHI(Grad. Sch. Sci. Niigata Univ.), Tsumugi TSUBOKAWA(Niigata. Univ. Sci.), Taito KAMATA(Niigata. Univ. Agri.), Tsuneo SEKIJIMA(Niigata. Univ. Agri.)

 水田や畔は湿地性・草地性生物の代替生息地として機能する二次的自然であり、生物多様性のホットスポットとされている。しかしながら、近年わが国では、農業従事者の減少に伴う耕作放棄が拡大し、水田における生物多様性の喪失が懸念されている。チョウ類は訪花性昆虫であり、耕作放棄による植生の遷移はそれらの多様性に影響を与えると考えられる。本研究では、新潟県佐渡市における耕作放棄地の拡大がチョウ類の多様性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
 2023年10月から2024年10月にかけて、佐渡市の営農水田と放棄水田を対象に、春(5〜6月)、夏(8月)、秋(10月)の3期間で15分間の時限センサスを行い、チョウ類の個体数を記録した。データ解析にはLASSO解析を用い、各種の在・不在データ(0・1)を応答変数、土地利用や地形などの環境要因を説明変数とした種分布モデルを作成し、2020年時点の生息確率マップを作成した。さらに、農業従事者人口の減少や耕作放棄の進行を考慮し、2050年に向けた2つの水田管理シナリオを設定した。1つ目の「なりゆきシナリオ」では、管理コストの高い中山間地の水田が優先的に放棄され、2つ目の「認証維持シナリオ」では、「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度による環境保全型農業を行う認証水田が優先的に維持され、放棄水田はモザイク状に分布する。この2つのシナリオに基づいて2050年時点の環境変化を予測し、将来の生息確率マップを作成した。さらに、種ごとの生息確率マップを統合し種数を算出した。
 春に25種235個体、夏に31種707個体、秋に20種1123個体を記録し、合計43種2065個体となった。そのうち、モデル作成ができた種は、春9種、夏8種、秋8種であった。また、耕作放棄の進行はチョウ類の種数を減少させることが明らかになった。本発表では、耕作放棄地の拡大パターンの違いがチョウ類の多様性に及ぼす影響を整理し、生物多様性保全に適した水田管理について議論する。


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