| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) K01-04  (Oral presentation)

密接な送粉共生系の地理的モザイクを利用したイワボタン列の花形質多様化要因の解明
Elucidating the driver of floral diversification in Chrysosplenium ser. Macrostemon using the geographic mosaic of a specialized pollination mutualism

*山口万里花(東京大学), 高橋秀男(東京都東久留米市), 菊地波輝(豊橋市自然史博物館), 吉田貴大(愛媛大学), 村上哲明(兵庫県博), 奥山雄大(科博・筑波実験植物園)
*Marika YAMAGUCHI(The Univ. of Tokyo), Hideo TAKAHASHI(Higashikurume, Tokyo), Namiki KIKUCHI(Toyohashi Museum of Nat. His.), Takahiro YOSHIDA(Ehime Univ.), Noriaki MURAKAMI(Mus. Nat. & Hum. Act., Hyogo), Yudai OKUYAMA(Tsukuba Botanical Garden, NMNS)

 被子植物と送粉者の相互作用のなかでも、種子食者が送粉を担う送粉共生系では、両者の共進化に伴う形質の特殊化が生じることがある。こうした相互作用の強度や帰結は地理的な変異を示すことが多く、植物の花形質に多様性をもたらす重要な要因であると考えられている。
 ユキノシタ科ネコノメソウ属イワボタン列は、主に花形質に基づき分類されているが、実際にはおしべの長さや萼の開き具合などに著しい地域変異が認められている。私たちはこれまでに、イワボタン列植物がクチナガハバチ属(ハバチ科)の昆虫と密接な共生関係にあることを明らかにしてきた。これらの幼虫はイワボタン列植物の種子を摂食して成長し、翌春に羽化した成虫は花に集まって主要な送粉者として機能する。両者は本州から九州にかけて広く分布するが、植物の花形態だけでなく、ハバチ側の口吻長にも顕著な地域変異が存在することが分かってきた。
 このことから私たちは、イワボタン列の花の多様性は、クチナガハバチ属との局所的な相互適応を通じて形成された可能性が高いと考えた。そこで本研究では、地域ごとに異なる相互作用の実態を明らかにするため、ハバチの個体群密度や共送粉者の有無を調査した。さらに、このような生態的な背景の違いが、花形態とハバチの口吻長の関連にどのような影響を及ぼしているかを探るとともに、送粉者相によって異なる可能性のある、花の匂い物質についても解析を行った。
 本発表では、イワボタン列の主要な送粉者クチナガハバチ属との関係性が地域ごとに異なることに着目し、この異質性が植物とハバチ双方の形態や生理的な多様化を促してきた可能性について議論する。


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