| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) L03-03 (Oral presentation)
生態系の相互作用ネットワークを理解するには、状態変数間の相互作用強度の定量化が重要である。Multivariate S-mapやMDR S-map、LMDrなどの局所線形回帰に基づく時系列解析は、力学モデルを仮定せずに相互作用行列(interaction Jacobian)を推定できる手法として広く用いられている。しかし実務上は、「力学モデルのタイプや支配方程式の詳細を全く仮定しないノンパラメトリックな手法である」・「推定された行列要素がそのまま種間・種内相互作用強度である」・「行列のトレースが構造安定性を示す指標である」といった誤解を含む解釈が用いられることがある。本発表では、それらのうち相互作用ネットワークの理解の上で定性的にすら不適切な結論に到達しうる重大なものだけを取り上げる。誤解解消のための出発点として、局所線形回帰が推定対象とする量は、相互作用ネットワーク的解釈を直接含むものではなく、力学系が持つ解釈中立的で一般的な特徴量としてのJacobian of flowであることを再確認する。本研究は、数学的に厳密な定義を持つJacobian of flowとしてinteraction Jacobianを再導出し、生物学的解釈との対応関係を整理することを基盤としている。その結果、種間相互作用の推定は妥当である一方、種内相互作用はinteraction Jacobianの数学的定義上過大評価され、単純比較ができないことを示した。この問題に対し、対角要素から1を差し引くという簡潔かつ厳密な補正法を提案する。さらに、この補正の必要性は、連続力学系と離散力学系で安定性判定の数学条件が異なる点とも密接に関連し、interaction Jacobian要素に基づく安定性指標の適用範囲と要修正事項を整理することが可能となる。本研究は、ノンパラメトリック時系列解析の結果を生態学的に正しく適用するための理論的枠組みを与えるだろう。