| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) L03-11 (Oral presentation)
F統計量は個体群における遺伝構造を定量するために使われる典型的な遺伝統計量である。通常、個体は染色体を2セットもつ複相(diploid)のみであることが暗黙に想定されるが、シダ植物は主要な世代である複相の胞子体とは別に、独立栄養生活を送る単相(haploid)の配偶体世代をもち、それらが世代交代する(haploid-diploid生活環)。
今回、我々はシダ植物(特に同形胞子性シダ植物)におけるF統計量が従来考えられてきた二倍体の種子植物とどのように異なりうるのかについて理論的な検討を行った。しばしばシダ植物では雌雄同体である配偶体世代の存在により、同一配偶体由来の雌雄配偶子が受精することで自殖(配偶体性自殖)が起こる。この配偶体自殖は種子植物で想定される自殖(胞子体性自殖)とは異なり、確実に一世代で完全な純系個体を産み出すため、それに伴う同祖過程の違いが集団に異なる遺伝構造をもたらすと予想される。
まず、配偶体の存在を明示的に想定した数理モデルを構築し、単一集団において配偶体自殖が起こるシダ植物におけるF統計量(FIS)がシダ植物における繁殖モードの影響を確かに受けることを確認した。次に、我々は無数の分集団が分散により接続された無限島モデルを用い、同様の計算を行った。空間構造がある場合、遺伝的に似通った配偶体が分集団内に局在しうるため、分集団内での交配が完全にランダムだとしても、自然に近親交配が起こる。実際、島モデルにおけるFISはランダム交配のもとで正の値になることが確かめられた。また、空間構造下では島間の遺伝的分化を定量する指標であるFSTも計算できる。最後に、これらのF統計量が種子植物で従来考えられてきた指標と比較したとき、どのように異なるのかを検討した結果についても報告する。