| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(口頭発表) M01-15  (Oral presentation)

卵と耳石から考えるクサウオ科魚類の生存戦略
Exploring the survival strategies of snailfishes (Teleostei: Liparidae) through eggs and otoliths

*亀井遥香(東京大学), 白井厚太朗(東京大学), 福田和也(北里大学), 天野春菜(北里大学), 筒井繁行(北里大学), 森俊彰(アクアマリンふくしま), 成松庸二(水産機構資源研), 藤原邦浩(水産機構資源研), 小島茂明(東京大学)
*Haruka KAMEI(The University of Tokyo), Kotaro SHIRAI(The University of Tokyo), Kazuya FUKUDA(Kitasato University), Haruna AMANO(Kitasato University), Shigeyuki TSUTSUI(Kitasato University), Toshiaki MORI(Aquamarine Fukushima), Yoji NARIMATSU(FRA), Kunihiro FUJIWARA(FRA), Shigeaki KOJIMA(The University of Tokyo)

 クサウオ科Liparidaeは30属450種以上を含む非常に種多様性の高い分類群であり、潮間帯から超深海まで幅広い水深帯に生息し (Chernova et al., 2004)、極域を含めたほぼ全ての海域で分布が確認されている。ユニークな産卵様式も報告されており、カニの甲羅の内側に産卵する種(オグロコンニャクウオ; Gardner et al., 2020)や、基質に卵を産み付け孵化まで保護をする種(クサウオ; ダイビングによる観察例)などが挙げられる。一方で、初期生活史に関する知見は乏しく、未解明な点が多い。
 本研究では多様な生息環境に適応してきたクサウオ科魚類の初期生活史解明に向け、卵黄タンパク質の発現解析および質量分析、耳石の酸素同位体比分析を行った。日本近海に分布するクサウオ科魚類3属6種の卵黄をSDS-PAGE、WBによるタンパク発現解析と、TOF-MSを用いた質量分析に供した結果、一般的な卵黄前駆体であるビテロジェニンが検出されたほか、C反応性タンパクやF型レクチンなどの免疫関連分子を含むことが推測された。魚類は種によって2または3種類のビテロジェニンを持つことが知られており(松原ほか, 2008)、ボラ3種類のビテロジェニンに対する抗体を用いたWBから本研究のクサウオ科6種は3種類のビテロジェニンを持つことが示された。免疫関連分子は他魚種の卵黄内からも報告されているが (Tsutsui et al., 2020; Honda et al., 2000)、本科におけるこれらの機能的意義は不明である。更に、6種中3種を対象にした耳石の酸素同位体比分析の結果、生活史初期はいずれの種においても低水温帯に留まっている可能性が示唆された。一方、一生を通した経験水温の変化は生息環境の違いによる影響も考えられ、今後の検証が必要である。
 これらの結果は、クサウオ科魚類の分子生理学的解析および生活史特性の双方から、初期生活史における基礎的な知見を提供するものであり、今後の生存戦略の解明に向けた手掛かりの一つとなり得る。


日本生態学会