| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(口頭発表) Q01-13 (Oral presentation)
食虫植物における獲物の消化には、植物自身が分泌する酵素に加え、捕虫葉内に共存する微生物の関与が示唆されているが、その生態学的意義や機能的役割については十分に解明されていない。本研究では、ムシトリスミレの一種であるコウシンソウ(日本固有・絶滅危惧種)を対象に、生育土壌の理化学性と捕虫葉の菌叢構造を解析した。
調査は日光火山群に属する男体山および雲竜渓谷の岩壁で実施した。岩壁には礫質で表層の薄い中性の鉱質土壌が分布し、蘚苔類がパッチ状に発達していた。蘚苔類は局所的な湿潤環境を形成し、その上にコウシンソウが生育していた。土壌中の炭素および窒素含量はともに0.2%未満と極めて低く、アンモニア態および硝酸態窒素はいずれも1.8 mg/kg以下であったことから、自生地は強い窒素制限環境にあると考えられた。捕虫葉内では、Pseudomonas属、Methylobacterium属、Sphingomonas属を中心とする細菌群およびRachicladosporium属などの真菌群が優占していた。これらには昆虫分解能や抗菌活性を有する種が多く含まれることが知られている。また、一部の細菌は窒素固定能を有する可能性が示唆されている。以上の結果は、コウシンソウが窒素制限環境下において、獲物の分解に加え、微生物による窒素固定を通じて窒素を補完している可能性を示唆する。現在、土壌、苔類および周辺植物の菌叢解析も並行して進めており、コウシンソウに特徴的な菌類の探索を行っている。本大会では、生育環境を踏まえた微生物の役割とその生態学的意義について議論する。