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一般講演 A1-03

石狩川におけるカワヤツメ幼生の生息環境と摂餌生態

*柳井清治,河内香織,白川北斗(北海道工業大学),笠原 昇(北海道立水産孵化場)

北日本に広く生息するカワヤツメ(Lethenteron japonicum)は貴重な漁業資源であると同時に,近年その資源量が激減しているため保全すべき魚種として注目されてきている.北海道の中央部を流れる石狩川水系においても,ヤツメウナギ漁獲量は1980年をピークに年々減少を続け,現在ではピーク時の50分の1まで減少している.その減少要因の一つとして,生息場の多くが河川工事により消失したといわれているが,実際カワヤツメがどのような場所に生息しているかに関する知見は極めて乏しい.そこでカワヤツメの幼生期における生態と生息条件を明らかにするため,石狩川流域において生息場の調査と室内における飼育実験を行った.現地調査は石狩川支流においてコドラートを設置し,電気漁具を用いて幼生を捕獲し,同時にその場所の物理環境と水質の測定および底質の採取を行った.また実験室において現地で採取した泥を容器に敷き詰め,落ち葉,藻類など異なる餌を与えて成長を比較した.この結果,河岸に形成されたワンド状地形内で,流れがほとんどなく細粒の底質が堆積した場所において幼生の生息密度が高かった.次に野外で捕獲した当歳魚を75日間インキュベータ−内で飼育したところ,直径2mmの潜孔痕を形成して泥中に潜って生息することがわかった.さらに餌の種類の違いによる幼生の成長量を比較したところ,ヤナギ葉を与えた処理の重量・体長が通常の泥土のみを与えた処理区に比べ有意に大きかった.また飼育実験後幼生の炭素・窒素安定同位体比を測定したところ,落葉を与えた処理の幼生は−27‰(δ13C),3‰(δ15N)となり,落葉の炭素同位体比に比較的近い値が得られた.これらのことからカワヤツメ幼生は流れの緩い場所に堆積した細粒の泥土内に潜行し,落葉起源の有機物を摂取しながら生息していることが示唆された.

日本生態学会