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一般講演 A1-07
ウミガメ類の生息数は世界的な規模で減少傾向にあると言われている。保全対策として、産卵適地海岸保全や幼亀放流などが各国で検討されている。しかし、ウミガメ類の生態は十分に解明されていなく、寿命が長いことなどから対策の効果はほとんど把握されていないのが現状である。
タイでは主に卵移殖あるいは恒温室内の人工孵化で生まれた幼亀を海に放流する対策が講じられてきた。ウミガメ類では産卵巣の温度により性比が決定されるので、孵化過程における温度管理は極めて重要な案件である。そこで、タイランド湾のKhram島において、アオウミガメ(Chelonia mydas)の性比50%となる産卵巣温度を推定するために温度調節実験を実施し、また温度に関する産卵場所選択性を検討した。
Khram島周辺の年間気温をみると、最高は4月の約31℃で、最低は12月から1月の約26℃であった。性比を予測するための温度指標として、孵化に要した日数を3等分した時の中央の期間における産卵巣の平均温度が用いられており、実験結果では性比50%の温度は30.44℃であった。産卵巣が作られた場所の砂中温度は日照下では樹冠下よりも高かった。産卵された割合は、樹冠下では69.7%、日照下では28.8%、そして灌木下では1.5%であった。
これまでの調査結果から、アオウミガメは産卵巣の場所として日照下よりも樹冠下を選択することが分かった。アオウミガメは合理的な性比を得るために産卵巣を作る場所の温度選択戦術を内在していることが示唆された。アオウミガメ個体群の永続的生存のためには産卵場所を現状の自然条件のまま残すことが最適対策であると思われる。