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一般講演 A3-07

重油煤塵の暴露がヤマザクラの生理生態に及ぼす影響

*中根周歩,馬卓良,尹朝熙,田上公一郎(広島大学・院・生物圏科学)

1980年代後半〜1990年代における和歌山県田辺市および周辺でのウメ枯れと北西20kmに位置する御坊市の関西電力火力発電所の煤塵との関連を明らかにするため、広島大学内の圃場で、2年間(2004,2005)にわたって中国産原油の煤塵の水溶液(この地域に降下したとして推定値された煤塵濃度1、3、10倍及び0倍)をヤマザクラ2〜3年生ポット苗木に暴露し、その可視障害への影響、かつ生理生態機能、乾物成長に及ぼす影響を調べた。初年度と2年度とも煤塵暴露濃度に対応して可視障害(変色と落葉)が増加する傾向が観察された。また、ヤマザクラの最大光合成速度や気孔コンダクタンスも、初年度、2年度ともほぼ同じ傾向が見られ、暴露区での影響が見られた。成長量については、煤塵濃度の増加に伴って、個体レベルの相対成長率に有意な低下傾向が認められた。特に3倍区や10倍区での成長の抑制は、これらの暴露区での可視障害(変色、落葉)の大きさ、光合成速度や気孔コンダクタンスの低下と関連していると考えられた。地上部の相対成長率も個体レベルと同様に、暴露濃度に応じて有意に減少したが、地下部は明瞭な傾向が見られなかった。しかし、最も伸長や更新が盛んで、水分や栄養素の吸収機能を司る細根の比率が暴露濃度の増加と反比例して減少したことは、煤塵暴露の影響と考えられる。さらに、実験結果は、田辺市などでウメ枯れが拡大した1990年代の地域の降下煤塵量が5年間継続した場合、ヤマザクラの生長を約30%削減することを示した。煤塵に加え酸性沈着物質やOHラジカル物質の影響がこれに加わることから、ヤマザクラが衰退し、枯死に至ることも想定が可能性といえる。ただ、今回用いた煤塵が必ずしも御坊発電所の煤塵と同じとは言えないことことから、実際の煤塵を用いた暴露実験が今後求められる。

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