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一般講演 A3-10
緑化を目的とした植林においては、遺伝変異の地域間差を考慮した苗木の供給を行うことが望ましい。本研究では、日本の冷温帯を代表する樹種であり緑化樹木として注目が高まっているブナを対象として、宮城県内において1)分子系統地理学的解析に基づく種苗流通許容範囲の設定を試み、次に2)過去のブナ植林に用いられた苗木の分子系統地理学的由来を明らかにし、さらに3)複数産地から種苗が導入されたと推定される植林地におけるブナの生育実態を調べて、ホームサイトアドバンテージの検証を試みた。
具体的には、宮城県内のブナ天然林の分布全域を網羅するように、63地点から計518個体のブナの葉を採取し、葉緑体DNAの6ヶ所の一塩基多型を対象として一塩基伸長反応法(SNaPshot)を用いてハプロタイプを決定した。また、8天然林集団について7つの核DNAマイクロサテライトマーカーに基づく集団遺伝学的解析を行った。さらに、県内で過去に行われた18ヶ所のブナ植林地から葉を採取し、同様に葉緑体DNAハプロタイプを調べた。複数産地から種苗が導入されたと推定されるブナ植林地については、現存する全てのブナ植栽木259個体のハプロタイプを調べ、開葉フェノロジータイプと複数股分岐個体の割合および生育度がそれぞれハプロタイプ間で異なるのかを調べた。
分子系統地理学的解析の結果、宮城県内におけるブナ苗木の流通許容範囲は少なくとも3つに区分できると考えられた。またこれまでのブナ植林では、遺伝変異の地域間差が考慮されていない実態が明らかになった。さらに、実際に過去に植栽された植林地においてホームサイトアドバンテージが働くことが明らかとなり、地域性種苗を用いるべき理論的根拠となる実例が示された。