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一般講演 B1-02

高CO2濃度環境下での冷温帯樹木シュートの蒸散と通水構造の変化

*江口則和(北大院農), 森井紀子(北大院農), 上田龍四郎(北海道ダルトン), 高木健太郎(北大生物圏セ), 船田良(農工大農), 日浦勉(北大生物圏セ), 笹賀一郎(北大生物圏セ), 小池孝良(北大院農学研究院)

現在深刻な環境変化の一つが大気中のCO2濃度の増加である。一般的に,高CO2濃度環境下で植物を生育すると,気孔が閉じ気味になり個葉の蒸散速度は低下する。しかしながら,樹体内の通水と関係の深い木部通道構造は種を通して一貫した変化を示さない。将来の水分生理特性を評価するためにも通道構造変化の要因を解明する必要がある。先行研究により,個葉レベルでは,光条件によって高CO2処理による通水特性(気孔コンダクタンス)と通道構造(葉柄道管面積)の変化が影響を受けることが分かった(陽葉では両者ともに低下したが,陰葉では変化しなかった)。しかしながら,葉と個体とでは吸水・節水機能が大きく異なるため,葉レベルでの知見を単純に個体レベルへスケールアップすることはできない。そこで本研究では,両者を橋わたしするシュートに着目し,葉で得られた知見がシュートでも成り立つかどうか調べることを目的とした。CO2付加の手法として、北海道大学札幌研究林に設置したFree Air CO2 Enrichment(通常濃度+130ppmv)を用いた。北海道に広く成育し通水構造の異なる2種、CO2処理4年目・5年生のミズナラ(広葉樹環孔材)とウダイカンバ(広葉樹散孔材)に着目した。通水特性としてシュート蒸散速度と水分通道度を,通道構造として総道管面積に注目した。林冠の陽葉シュートでは高CO2処理によってすべてのパラメータが両種共に低下した。陰葉シュート(光量が林冠の約15%)ではすべてのパラメータが変化しなかった。すなわち,葉レベルでの知見はシュートレベルでも成立した。この結果は個体レベルでの応答を評価するための重要な知見となりうるであろう。

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