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一般講演 B3-01
樹木の耐乾性の指標として,P-V曲線法で求めた、原形質分離時の葉の浸透ポテンシャル(ψtlp)が用いられてきた。この手法は,葉の浸透圧調節によって水分損失を抑える樹種を評価するには有効であるが,例えば、クチクラを強化して水分損失を抑える樹種の評価はできない。乾燥に対して樹木がどのような仕組みで対応しているのかを調べる目的で,本研究では、「葉からの水の抜けにくさ」を脱水実験によって評価し、P-V曲線法の結果と合わせて考察した。
京都大学付属芦生研究林(京都府南丹市)において、強い乾燥がかかると考えられる瘠尾根から、広葉樹10種(落葉樹7種、常緑樹3種)の枝を採取した。試料を飽水させた後、P-V曲線法と脱水実験を行った。P-V曲線法により、原形質分離時の浸透ポテンシャルの値やその他の水分生理に関する値を求めた。脱水実験では、気温20℃、相対湿度60%の条件下で、飽水状態の葉の重量減少を時間を追って調べ,相対含水率の値に基づいて原形質分離までの時間を算出した。
ψtlpの値は-1.23MPaから-2.43MPaの範囲にあり,アズキナシ、ミズナラ、ナナカマドでは-2MPaよりも低い値を示した。これらの樹種は乾燥に際しても膨圧を維持できると考えられた。脱水実験においては,原形質分離までの時間は多くの樹種で2時間以内なのに対し、ミズナラ、タムシバと常緑樹種であるアセビ、クロソヨゴでは3時間以上を要した。これらのことから、乾燥時に体内の水分を保持する手段として,主として浸透圧調節を行う樹種と,クチクラからの蒸散を押さえる樹種の存在が示唆された。