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一般講演 B3-03
大気中の温室効果ガスの増加により、今世紀中に地球表面の年平均気温は1.0〜3.5℃増加すると予測されている。多くの研究が、温暖化処理によって落葉性植物の成長量が増加し、常緑性植物の成長量や種数が減少することを示してきた。しかし、その増減が生じるメカニズムまで踏み込んだ研究はなく、「温暖化に対する成長の応答が落葉性植物と常緑性植物とで異なるのはなぜなのか」についての理解は進んでいない。本研究は、植物の成長を最も律速する資源のひとつである窒素に着目し、成長量を窒素獲得量と窒素利用効率(獲得した窒素量あたりに達成される成長量)の積として解析することにより、異なる温度条件下における落葉性植物と常緑性植物の成長の決定機構を明らかにすることを目的とした。
調査は、青森県八甲田山系の標高傾度を利用し、生育温度の異なる2つの湿原で行った。対象種は、落葉性草本ヌマガヤ(イネ科)、半落葉性草本ワタスゲ(カヤツリグサ科)、常緑性草本ショウジョウバカマ(ユリ科)の3種である。高標高湿原(1290 m a.s.l.)に比べて低標高湿原(590 m a.s.l.)では平均気温が約3℃高く、積雪期間は約50日短かった。ヌマガヤ、ワタスゲ、ショウジョウバカマの年間の地上部成長量は、高標高サイトに比べて低標高サイトでそれぞれ7.6倍、5.7倍、3.2倍大きかった。また、定常状態(窒素獲得量=窒素損失量)を仮定した場合、年間の地上部の窒素獲得量は、高標高サイトに比べて低標高サイトでそれぞれ7.6倍、5.1倍、4.8倍大きかった。一方、いずれの種においても窒素利用効率は標高間で大きな違いが見られなかった。これらの結果は、生育温度が高い場所における落葉性植物の高い生産が、高い窒素獲得によって達成されたことを示している。