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一般講演 B3-04
大都市近郊の森林では、降水・渓流水の窒素濃度の上昇が顕著であり、森林生態系への影響が懸念されている。そこで本研究では神奈川県西部の丹沢山地で、降雨に含まれる窒素が樹木の成長速度や競争関係にどのような影響を及ぼしているのかを調べ、また窒素の影響を軽減する可能性を検討するために、以下の実験を行った。
先駆的樹種:アカメガシワ・ムラサキシキブ・キブシ、中間的樹種:クマシデ・イヌシデ・ウリカエデ、極相的樹種:イロハモミジ・イヌブナの種子を2005年に丹沢で採集し、翌4月に大学構内のビニールハウスに播種、9月に測定した。処理区は、土壌2通り(変成岩・花コウ岩風化土壌のB層)×窒素5段階(純水・小笠原相当[Low; 2kg/ha/y]・丹沢相当[Amb.; 10kg]・Amb.の10倍[High]・High+鋸屑)×繰返し(プランター)8とした。相対照度は約60%、鋸屑は土壌の容積の2割とし、窒素は該当量の硝酸アンモニウム溶液を週に1回与えた。
Lowに比べてAmb.では、個体重は土壌毎の平均値で15- 20%程度、Top:Rootは5-15%程度高く、葉窒素濃度は有意に低下した。先駆的な樹種ほど窒素への反応性が高い傾向にあり、ゆえに種間の相対サイズの大小関係が変化した。例えば個体重はLowではイヌブナが最も高いが、変成岩のAmb.ではアカメガシワが最も高かった。幹長も類似の傾向を示した。これらの結果から、丹沢山地では降雨中の窒素が樹木実生の成長様式を変化させ、競争関係の改変によって群集構造にも影響している可能性が示唆された。鋸屑の窒素効果緩和機能は極めて高く、本実験設定では過剰なことがわかった。