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一般講演 C1-01

枝葉の食痕からエゾシカの生息密度を予測する

*明石信廣,南野一博(北海道林試)

森林の天然更新にとって許容できるエゾシカの生息密度水準を明らかにするには,生息密度を示す何らかの指標を用いて,その指標と森林に対するエゾシカの影響の関係を検討する必要がある。北海道のエゾシカ保護管理計画では,ライトセンサス,狩猟者によるエゾシカの捕獲数や目撃数,農林業被害額などが指標として利用されている。しかし,ライトセンサスではセンサスルート以外の情報が得られず,狩猟者の少ない地域や鳥獣保護区では狩猟者による情報が得られないなどの問題がある。エゾシカの個体数管理は生息密度が低い段階から実施することが重要であることが認識されるに伴い,低密度地域におけるエゾシカの生息状況を把握することのできる新たな指標の開発が必要となっている。そこで,エゾシカの生息密度が比較的低い空知地方において,天然林における稚樹の食痕を調査し,新たな指標としての可能性を検討した。

調査は過去3年のライトセンサスによる観察頭数が比較的安定している8ルートを選び,そのルート沿いの落葉広葉樹天然生二次林に20×20mの方形区を設定して行った。稚樹の密度は,森林の発達段階や調査時点でのエゾシカの影響だけでなく,エゾシカによる過去の累積的な影響やササの密度によって大きく異なる。そこで,調査時点におけるエゾシカの影響を示すものとして,現存する稚樹の本数に対する食痕のある割合(稚樹食痕率)を求めたところ,ライトセンサスにおける10km走行あたりのエゾシカ観察頭数と稚樹食痕率に関係が認められた。この関係から,稚樹食痕率を調査することにより,その地点でのエゾシカの生息密度がライトセンサスでどの水準にあたるかを予測することが可能となる。

食痕の調査は任意の天然林において可能であり,新たなエゾシカ生息密度の指標としての有効性は高いと考えられる。

日本生態学会