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一般講演 C1-08

20世紀における中海生態系の突発的な富栄養化

*宮本 康(鳥取県衛環研),山田和芳,(島根大・汽水研),香月興太(島根大・汽水研),高田裕行(島根大・汽水研),中山大介(島根大・汽水研),山口啓子(島根大・生物資源),Hugo Coops(RIZA),國井秀伸(島根大・汽水研)

淡水湖の富栄養化は突発的に生じることが世界各国で報告されている。これに対し、淡水湖と海の間に位置する汽水湖では、富栄養化がどのような様式で生じるのか不明な点が多い。現時点では、汽水湖は突発的な富栄養化(レジームシフト)は生じにくく、常に濁った状態にあることが湖沼生態学者の共通認識となっている。

しかし汽水湖の中海では、水質と沈水植生に関する文献調査から、過去にレジームシフトが生じたことが示唆されている。ただし、この点に関する直接的な証拠はない。本湖の富栄養化の過程が明らかでないことは、今後、中海の再生事業を行う上での障害になるだろう。なぜなら、湖沼の再生法は対象とする湖がどのように富栄養化したかで異なるからである。したがって、中海再生のためには、まず本湖の富栄養化の過程を明らかにする必要がある。

そこで本研究は、中海が過去にどのような富栄養化を生じたのかを明らかにすることを目的とした。文献調査より本湖は1950年代にレジームシフトを生じたことが示唆されていることを鑑み、過去100年間における本湖の変化に注目した。そして、生物群集と無機的環境の年変化を底質コア試料の分析により明らかにした。

湖心で採取した試料を分析した結果、植物プランクトンである珪藻の全数が1950年代の中頃に急増したことが明らかになり、中海におけるレジームシフトの発生が示唆された。さらに、沈水植物や海藻に付着する機能群、および酸化的な底質表面に付着する機能群が同年代に激減し、浮遊性の機能群が激増したことから、1950年代の突発的な富栄養化は、沿岸植生の衰退と底質の貧酸素化を伴っていたことが示唆された。

日本生態学会