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一般講演 D1-04
日光戦場ヶ原湿原では、湿原内に作られた排水路からの水の流出、逆川からの土砂の流入による植生の変質が古くから問題になっており、その実態解明と保全に向けた調査研究が1980年代から続けられてきた。本研究は約25年間の植生変化を明らかにし、現在の戦場ヶ原の実態を明らかにすることを目的とした。調査は湿原全体を対象とした植生図作成と5本のベルトトランセクトの追跡という二つの視点で行った。
湿原全体での変化を把握するために、福嶋ら(1985)の植生図と同様の凡例を用い、航空写真と現地踏査により2006年相観植生図を作成し、変化を比較した。その結果、北戦場地域での変化が顕著で、湿原周辺部でズミやカラマツによる森林化、ホザキシモツケの低木群落の部分的拡大などの変化がみられた。
湿原と森林の移行帯域に1980年代に調査した5本のベルトトランセクトで植生調査、毎木調査、環境調査、シカ食痕調査を行った。その結果、南戦場地域に位置し人工排水路が存在するベルト1では水路幅の拡大と地下水位の低下が起きていた。北戦場地域に設置したベルトAでは、カラマツを中心とした樹木の侵入、生長が顕著であった。全てのベルトで共通して、シカによる食害の影響が大きく、特に林縁低木群落、森林群落で種数の増加が見られた。増加したものの多くは、シカ不嗜好性種のサワギク、シロヨメナなどの種と、シカの食害に耐性のあるヤマカモジグサ、トボシガラなどの種であった。また、レンゲツツジやクロミノウグイスカグラといった低木種が顕著に減少していた。さらに、林縁低木群落と森林群落の種組成が近づいており、移行帯が不明瞭になるという特徴が見られた。
以上より、森林化は北戦場地域の広範囲と南戦場地域の排水路付近で進行していること、湿原全域の林縁低木群落と森林群落ではシカによる食害が深刻で、植生の破壊が急激に進んでいることが明らかになった。