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一般講演 D3-10
花内における胚珠の余剰生産(種子にならない胚珠の存在)は、花の余剰生産(果実にならない花の存在)同様に一般的な現象である。受粉花粉も資源も十分な状態でも、種子/胚珠の比が 1 よりもかなり低い植物は多い。本研究では、こうした余剰胚珠の進化を説明する新しい仮説を提唱する。胚珠を余剰生産し一部を選択的に中絶することは、受精胚珠間の資源競争を制御する雌親の戦略であるというものである。受精胚珠は、雌親から資源を吸収して種子へと発達していく。この過程で、資源吸収を巡って競争が生じる。資源吸収能力に受精胚珠の間で差があるならば、不均一な大きさの種子ができあがることになる。しかし雌親にとっては、自分の資源を均等に分配し、均一な大きさの種子を作ることが有利である。そのため、胚珠を余剰生産し、資源吸収能力が同程度である受精胚珠を選択的に残す。その結果、ほぼ均一な大きさの種子ができあがる。この仮説が働くかどうかを、数理モデルを用いて調べた。受精胚珠には、資源吸収能力が高い型と低い型の二型があるとする。雌親は、受精胚珠の資源吸収速度を関知することができる(どちらの型なのか知ることができる)。しかし、どれくらいの大きさに発達しているのかを関知することはできない(種子の大きさを直接的に知ることはできない)。以上の仮定の下で解析したところ、二型間の資源吸収速度にある程度の差があるならば、胚珠を余剰胚珠し、どちらかの型を選択的に中絶することが有利になることがわかった。この仮説では、完成した種子の遺伝的質には差が無くても選択的中絶が有利となりうる。この点で、遺伝的質の高い種子を選択するという従来の仮説とは異なる。