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一般講演 F1-02
カワトンボ属2種のオスは、繁殖のために顕著ななわばり性を示す。なわばりはメスの産卵基質となる渓流の枯木などを中心に形成され、オスはなわばりに飛来したメスと交尾して産卵させる。2種には異なるなわばり環境選好性が見られ、カワトンボ(Mnais pruinosa)は比較的暗く閉鎖的な環境や河川の上流になわばりを形成し、オオカワトンボ(Mnais costalis)は明るい開けた環境や比較的下流を好んでなわばりを作る。これまでの観察から2種のメスの産卵基質に違いはないことが示唆されているため、それ以外の環境要因やオス側の要因が、繁殖場所を決定していると考えられる。
それぞれの選好環境では、繁殖行動が行われる日中に林冠の状態により熱環境が大きく異なるが、カワトンボの体温は周囲の熱環境に影響されるので、このことが繁殖場所の選択に関係している可能性がある。体温はトンボの活動性(飛翔能力)に関係する要因であるため、2種がそれぞれの選好環境に適応した何らかの形質置換を起こしているかもしれない。
そこでまず、カワトンボ属の繁殖行動や体温と熱環境との関係を調べるために、2種が同所的に存在する場所で野外調査を行った。その結果、なわばりに滞在するオスの体温は、なわばりの環境によってほぼ決定されることがわかった。また、2種が同じ場所で繁殖行動を行っていても、時間的に変化するモザイク状の明暗パッチに依存して繁殖成功が異なっていた。さらに、飛行可能な体温と高温環境への耐性について簡単な実験を行ったところ、2種の間で反応に違いが見られた。これらの結果をもとに、産卵基質を同じにする近縁種が、熱環境の時空間的な異質性を利用して繁殖場所を分割している可能性について考察する。