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一般講演 F1-12

ウラナミジャノメにみられる特異な化性の地理的変異

*鈴木紀之,西田隆義(京大農・昆虫生態)

昆虫の生活史形質に関してはこれまでに膨大な研究例があり、総じて季節適応の結果として理解されてきた。しかしながら、季節適応だけでは解釈できない化性の変異や休眠現象も存在する。本研究の材料であるウラナミジャノメ(チョウ目ジャノメチョウ科)には特異的な化性の地理変異みられる。そこで、成虫期における近縁種との何らかの種間競争が化性に影響を及ぼしているという仮説をたて、室内実験および野外調査を実施した。ウラナミジャノメが地理的に複雑な化性を示し局地的に分布しているのとは対照的に、近縁種のヒメウラナミジャノメは気候条件に沿った化性を示し、全国的な普通種である。ヒメウラナミジャノメが分布しない対馬では、ウラナミジャノメは多化性で個体数も多い。両種ともほとんどのイネ科植物で正常に発育できるので、寄主植物をめぐる幼虫期の種間競争は考えにくい。化性の異なる4つのウラナミジャノメ個体群において飼育実験を行ったところ、個体群間で幼虫の休眠率、発育パフォーマンスに違いがみられた。京都府におけるトランセクト調査により、ウラナミジャノメの成虫はヒメウラナミジャノメと発生する時期および生息場所を分けていることが明らかになった。稀に存在する両種の混生地では、異種間で配偶をめぐるハラスメントのような行動が観察され、体サイズにおいて大きな差があることが分かった。以上のことから、ウラナミジャノメの化性や生活史は季節適応だけではなく、みさかいのない近縁種のオスから受ける配偶干渉を回避した結果として決まっていることが示唆された。

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