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一般講演 F3-01

カタクリはどちらを向いて咲くの?

*丑丸敦史(神戸大),川瀬大樹(京大),今村彰生(京都学園大)

生物の持つ器官が効率良く機能するためには、その器官を適切な方向に向けることが必要であろう。例えば、目で特定のものを見ようとしたら目をその対象へ向けなければならない。では虫媒植物の花はどこへ向いて咲けば、より多くの送粉者を引きつけられるのであろうか?送粉者は開放(飛翔できる)空間の中に均一に分布していると仮定すると、植物はより広い開放空間に花を向けることによってより多くの送粉者を誘因し、その訪花を受けることができると考えられる。

斜面上では、植物は不均質な空間中で花を咲かせている。つまり、開放空間は斜面上部よりも斜面下部により広く存在している。花がより広い開放空間に向けて咲くのであれば、「斜面上では花は斜面下部を向いて咲く」という予測が成り立つ。この傾向はより傾斜のきつい斜面で顕著になることも予測される。ImamuraとUshimaru(未発表)は、ギンリョウソウの仲間でこの予測通りの現象がみられることを発見した。

この研究では上記の発見をうけて、カタクリを対象に「斜面下部に向けて花が咲く」ことが植物の繁殖成功を向上させているのかどうか実験的に検証した。茨城県北茨城市の小川学術参考林において、実験的に斜面上部に向かせた花と自然状態のコントロール花の結実數と開花中の葯内花粉数の減少を調査した。その結果、斜面上部向きの実験花においては斜度の増加に伴った結実の減少が見られたが、コントロール花においてはこの傾向は見られなかった。また葯内花粉数の減少は、コントロール花において有意に大きかった。以上から、カタクリでは「斜面下部に向けて花が咲く」ことで繁殖成功が向上していると考えられた

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