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一般講演 F3-02

インド−太平洋の栽培共生

畑 啓生(京大・理)

琉球列島のサンゴ礁で、スズメダイ類と、その藻園に繁茂する糸状紅藻イトグサ類との間に、ヒトと栽培植物に例えられる栽培共生が見つかった (Hata & Kato 2006)。サンゴ礁のラグーンでは、藻食性スズメダイ類が藻類を齧り尽くす魚やウニからなわばりを守り、その中に摂餌の場となる藻園を維持する。クロソラスズメダイは藻食者からの防衛に加え除藻を行い、イトグサsp.1が繁茂する藻園を維持している。クロソラスズメダイは藻園のみで摂餌し、またイトグサsp.1はクロソラスズメダイの管理なしには生存できない。このように両者は互いに生存を依存しあう絶対栽培共生に達している。

なわばり性スズメダイ類の多くは広くインド−太平洋に分布する。栽培共生の実態を明らかにするため、これらの海域でスズメダイ類13種について調査を行った。

その結果、イトグサsp.1は、モーリシャス、エジプト、オーストラリアにおいてもクロソラスズメダイの藻園のみで採集され、他種のスズメダイの藻園からは見つからなかった。これにより、クロソラスズメダイとイトグサsp.1との種特異性は、インド−西太平洋を通して維持されていることが明らかになった。一方で、イトグサsp.1がクロソラスズメダイの藻園で必ずしも優占しないモーリシャスやオーストラリア、モルディブのような海域もあり、スズメダイのイトグサへの依存度は海域により大きく異なった。さらに、ケニヤやモルディブ、そしてモーリシャスの一部の藻園からは、イトグサsp. 1に最も近縁な新たなイトグサの一種、イトグサsp. 5が発見された。ケニヤではクロソラスズメダイが除藻を行うのを観察しており、このイトグサsp. 5が主要な餌として栽培されていると考えている。

こうして、クロソラスズメダイは海域により、2種のイトグサ類と地理的モザイク構造を持つ共生関係にあることが明らかになった。

日本生態学会