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一般講演 F3-03

スギの一耐病性重複遺伝子の集団遺伝学的解析

*萬歳明香,田村美帆,佐々木学美(九大・理・生物),二村典宏,篠原健司,津村義彦(森林総合研究所),楠見淳子,舘田英典(九大・理・生物)

イネやシロイヌナズナなどのモデル植物では、耐病性遺伝子R-geneの遺伝的多様性の解析によって宿主−病原体の生物間相互作用による進化が明らかになりつつある。しかし世代時間が長く病原体との相互作用の様相が草本とは異なると考えられる樹木が、どのように耐病性を進化させているかは殆どわかっていない。そこで、本研究ではスギ(Cryptomeria japonica)のR-gene相同遺伝子の一つであるCD657遺伝子の遺伝的多様性を調べた。この遺伝子の産物はNBSとLRRというR-geneに特徴的なドメインを含んでいる。岩手・屋久島という生息環境の異なる2集団においてそれぞれ複数個体から採取されたスギの胚乳DNAを使い、CD657の塩基配列多型を解析した。

その結果、この遺伝子はゲノム中に複数のコピーが存在し、多重遺伝子族を形成している事が分かった。また、遺伝子族内での非同義置換率が同義置換率よりもかなり高く、アミノ酸変化を促進する淘汰が働いている事が示唆された。さらに、遺伝子コピー同士をNBS、LRRの二領域に分けて系統樹を作成したところNBS、LRR2つのドメイン間で異なる系統関係が示された。このことより、この遺伝子族では単純な塩基置換によるアミノ酸の変化に加え、ドメイン間の組換えによって多様性を創出している事が示唆された。一方岩手と屋久島は距離的にも離れており環境が異なるので集団間の遺伝的分化があると予想されたが、この遺伝子族に関してそのような分化は検出されなかった。

本講演ではこのような多重遺伝子族の特徴が樹木の耐病性にどのように寄与しているかについて考察する。

日本生態学会