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一般講演 F3-05
ヤマトシロアリ属の個体は、卵からの孵化後、脱皮を経て有翅虫に至る「ニンフ」の発生系列と、翅を持たない「ワーカー」の系列のいずれかに分化する。ある個体がどちらのカストに分化するかは、コロニー内の他個体によるフェロモンの作用など外的要因により決定されると考えられてきた。しかし最近、ヤマトシロアリReticulitermes speratusのワーカー・ニンフ双方に由来する幼形生殖虫を用いた交配実験から、(1)生まれた幼虫は、両親の由来するカストと自身の性により、明確に異なる分離比で両カストに分化し、内的要因がカスト決定に強く関わっていること、(2)この分離比は1遺伝子座の遺伝モデルで説明可能なこと、が明らかになった(Hayashi他、投稿中)。
本研究では、ヤマトシロアリと同属のカンモンシロアリR. kanmonensisを用いて、同様な交配実験を行った。ニンフ型(ニンフに由来する)生殖虫同士、ワーカー型生殖虫同士、ニンフ型オスとワーカー型メス、ニンフ型メスとワーカー型オス、という4通りの生殖虫の組み合わせを設けて交配させた。生まれた卵はワーカーに育てさせ、3齢以降に達した時点で個体の性とカストを判別した。
生まれた卵の生存率はヤマトシロアリに比べて低く、これはワーカーによる食卵によるものと考えられる。子が分化したカストの分離比は、ヤマトシロアリの場合とほぼ同じ結果となり、同じ遺伝モデルでうまく説明できる。少なくともヤマトシロアリ属では、種を越えてワーカー・ニンフのカスト決定に共通の機構が存在しているらしく、遺伝的なカスト決定が強く示唆される。予想される遺伝的機構の特徴についても議論する。