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一般講演 F3-10
一次元のニッチ空間上で複数の種が競争する状況について、生物種のニッチ利用の柔軟性が共存関係に及ぼす影響を、主に計算機シミュレーションを用いて理論的に調べた。
それぞれの種には最も適したニッチがあるが、それには一定の幅(柔軟性)があると考えた。ニッチ空間上の分集団の間には競争が生じるが、その強さはは種内と種間で異なり、また、ニッチ空間上での分集団の距離にともなって減衰すると仮定した。各ニッチでの増殖率は環境変動の影響を受けるが、変動には空間上の全てのニッチの状態が同調して変化する「ニッチ非依存的変動」と、各ニッチの状態が独立に変化する「ニッチ依存的変動」があるとし、加えて、「ニッチ依存的変動」については近接するニッチ(似ているニッチ)の変動に相関がある可能性も考慮した。
シミュレーションの初期状態では、ニッチ空間上の様々な位置をニッチとするN種をランダムに選び、それらを各々等しい密度でニッチ上に配置した。だたし、シミュレーション内では、全ての種のニッチの幅は同一であると仮定している。この系の動態を初期状態から1,000世代にわたって追跡して最後に残っている種数により多様性を評価した。
この解析から、変動環境においてニッチの柔軟性(ニッチの幅)は2つの効果を通じて種多様性を促進することが分かった。一つは、増殖率の変動によって引き起こされる絶滅を回避する直接的な効果、もう一つは、「ニッチ依存的変動」がある状況で異なるニッチを利用することにより絶滅を回避する「bet-hedging」効果である。変動全体の分散が一定の場合、「ニッチ非依存的変動」と「ニッチ依存的変動」が同時に存在してさらに後者に相関がある場合に、ニッチの幅と共存種数の間の正の相関がもっとも顕著になった。