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一般講演 G1-06
森林は尾根や谷などの異質なハビタットが混在し,隣接するハビタット(照葉樹林内の尾根と谷など)からの種子供給が重要であるようなメタ群集を構成していると考えられる.しかし種子供給の寄与の大きさは明らかでない.
この研究では複雑な地形に成立する照葉樹林内で,種子生産個体と幼個体の空間分布を調査し,種子不足の有無や地形環境(地点の集水面積,傾斜,日射量など)に対する両者の反応の比較から,隣接ハビタットからの種子供給の重要性を明らかにすることをめざした.調査地である清澄山の荒樫沢は大きな標高差はないが,100m程度の空間スケールで尾根と谷が入り組んだ複雑な地形が数km2続く照葉樹林である.10m×10mのプロットをライン上に配置し,木本の繁殖個体と幼個体の有無を調査した.
その結果,幼個体は繁殖個体の周辺に多いものの,単なる地形環境の影響としても説明可能であり,種子散布能力に由来する種子不足は検出できなかった.また地形環境に対しては非繁殖個体が繁殖個体にくらべて広い分布域を持っている種が多かった.繁殖個体からの種子はメタ群集全体に広域に散布されるが,地形環境によって繁殖個体が存在できない場所も多く,そのような場所では外部からの種子供給で個体群が維持されていて,多くの種ではソース・シンク構造をとっている.調査した種ではソース領域と比べて平均で1.5倍のシンク領域の面積を持ち,ひとつのプロットの出現種の平均47%は非繁殖種であった.
複雑な地形はソース・シンク構造により非繁殖種を増やすことで,ある地点の群集の多様性を上げるが,群集の成り立ちを研究する場合にはプロット内の非繁殖種と繁殖種を区別して扱う必要がある.