| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 G1-08

富士山亜高山帯雪崩跡地における植生回復とパイオニアプラントの機能

*南 佳典(玉川大・農)・渡辺功(日比谷花壇)

富士山亜高山帯には雪崩の発生年数やその頻度・程度が様々な撹乱跡地が拡がっている.御庭洞門下部の雪崩撹乱跡地(調査地A)は,雪崩発生後,数十年が経過していると推定されるが,未だ林分の閉鎖がみられていない.西側林縁部の林床には,マイヅルソウやイワダレゴケのように亜高山帯極相林分に出現する林床種がみられ,林縁部から撹乱跡地にコケモモのパッチが伸びているが,亜高山帯における初期の林分構成種であるカラマツの実生および稚樹の定着は進んでいない.一方,その東には雪崩発生から間もない撹乱跡地(調査地B)があり,林冠を構成する樹木が存在せず,イタドリが優占する.また,シモフリゴケやミヤマスギゴケなどの蘚苔類がわずかに生育している程度である.今回の研究では,両撹乱跡地において,パイオニアプラントとして位置づけられるイタドリの生育分布とその植生回復における機能を検討することを目的とした.

調査地Bは土壌表面が大きな礫で構成されるため,多くの空隙が生じていた.その空隙にイタドリの種子が捕捉されやすくなり,結果として定着できる実生個体数が多くなる.また,パッチサイズも大きなものが多い.それに対し,調査地Aではパッチはいずれも小さく,シュート数も少ない.また,調査地Aの個体から生産される種子は調査地Bのものより小さくかつ発芽率も低いため,種子散布による発芽・定着には不利であるように思われる.このようにみると,調査地Bのように大パッチを形成するイタドリでは,そのパッチ内に他種の侵入が多くみられたが,調査地Aではパッチサイズが小さいため,他種が侵入する場としてあまり機能していないようである.このことが,調査地Aにおける遷移の停滞に関与していると推測される.

日本生態学会