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一般講演 G3-03

植物プランクトンにおける富栄養化のパラドックス

*吉村仁,泰中啓一(静大創造院),宮崎龍雄,富樫辰也,向坂幸雄(千葉大海洋バイオ),中桐斉之(兵庫県立大環境)

植物プランクトンの種多様性は自然では非常に高くなるケースがよく知られている。非常に高い種多様性のおこる条件は、概して貧栄養状態に観られる。ところが、近年、湖沼や沿岸の水質汚染のために多くの水域が富栄養化してきている。これら富栄養化した湖沼や水域では、汚染に伴い種多様性が極度に低下してくることが知られている。湖沼のデータでは、種多様性を栄養度を横軸として種多様性をプロットすると、「貧栄養」にピークをもつ富栄養に広いすそのをもつ偏った山型となる。このような現象は、植物プランクトンにおける富栄養化のパラドックスと呼ばれている。その理由は、貧栄養条件では、資源が少ないので、多種のプランクトンは資源を枯渇させるために共存できない。しかし、富栄養化にしたがって、資源が豊富になるので、共存可能となるはずである。つまり、多種共存が可能となる富栄養条件で逆に多種共存が観られないのである。ところが、自然界の植物プランクトンでは、極貧栄養の状況でもっとも高い種多様性がみられるが、富栄養化に伴い急激に多様性が消失していく。本研究では、生態系格子モデルを作成して、10種のプランクトンの共存実験を行う。このとき、各種の繁殖条件は類似しているが、成長のプロファイルがわずかに異なる。生態学的スケールの世代時間での共存可能性をシミュレーションした。これらの結果から、「富栄養化のパラドックス」にみられる種多様性プロファイルを見出した。本公演では富栄養化による多様性消失のメカニズムについて論ずる。

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