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一般講演 H1-02

ヤナギの補償成長が節足動物群集の共存を促進する

*内海俊介(京大・生態研セ),中村誠宏(北大苫小牧),大串隆之(京大・生態研セ)

植食者による食害は、植物の形質変化を引き起こし栄養や防衛物質のレベルの変化を通して植食者の密度に影響を与える。一般に、食害による形質変化は植物個体内での局所的な反応であることが多く、誘導された形質変化は植物個体内における植食者の餌資源の不均一性を増加させる可能性がある。そこで本研究では、食害による形質変化が植物個体内の資源の不均一性を増加させ、その上の昆虫群集の構造に影響を与えるかどうかを明らかにすることを目的として行った。

ヤナギは食害に対して新たな枝を再成長させる反応を示すことが多い。そこで、実験林園のヤナギを用いて再成長反応を引き起こす食害処理を行った。各ヤナギ個体に25%の枝切除を施した区とコウモリガ幼虫による部分的食害を施した区を設置し、これらの処理区ではヤナギ個体内に再成長枝が混在するようにした。また、ヤナギを根元から切除しすべて再成長枝になる全枝切除区を設置した。各処理区における昆虫群集の個体数・種数・種構成を1年間調査し、食害処理を行わないコントロール区と比較した。その結果25%切除処理とコウモリガ食害では、植食者の個体数と種数がコントロール区より有意に増加した。全枝切除区とコントロール区間で植食者の個体数と種数に違いが見られなかった。捕食者の個体数や種数には食害処理の影響が現れなかった。植食者の種構成は4処理区間で異なるパタンが形成された。特に、再成長が生じたヤナギではコントロールに比べてスペシャリストの割合が多い傾向が見られ、それは全枝処理区で顕著であった。したがって、食害による形質変化が植物個体内で部分的に生じることによって資源のタイプが増加し、種特異的な資源選好性を持つ植食者の種数が増加したと考えられる。

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