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一般講演 H1-03

林冠木個体全体への強い食害に対する植物形質と昆虫群集の応答

*小暮慎一郎(北大・低温研),中村誠宏(北大・苫小牧研究林),日浦勉(北大・苫小牧研究林),戸田正憲(北大・低温研)

葉食性昆虫による食害に対する植物の反応については、これまでに葉レベル、枝レベルの弱い食害を模した切葉実験が主に研究されてきた。しかしながら、北海道北部で観察される鱗翅目幼虫の大発生のように、樹木の葉が食べ尽くされる強い食害が生じることがある。そのような場合の林冠木個体全体の反応については、既存の研究では十分な評価ができない。本研究の目的は、この葉食性昆虫の大発生を模した林冠木個体の全切葉をする大規模な操作実験を行い、植物の成長、形質、葉食性昆虫群集に与える影響を解明することである。

本実験は北海道大学苫小牧研究林の林冠観測用ジャングルジムを使用して、7月上旬にミズナラ林冠木個体(高さ:15〜20m)に対して全切葉処理を4個体に施し、隣接する未切葉(未処理)の4個体とともに、その後の反応を調査した。

その結果、7月中旬に全切葉処理では補償成長が生じて側枝が活発に伸長し、総当年枝長が長くなった。そのため、より数多くの葉が生産されたが、その葉のサイズは小さかった。一方、葉形質の被食に対する物理的防御であるLMAが低く、化学的防御物質である縮合タンニン量は減少したが、総フェノール量に有意な違いは見られなかった。また、炭素と窒素の含有量は減少した。葉食性昆虫の反応において、咀嚼性昆虫による食害度は増加したのに対し、潜葉性及びゴール形成昆虫の密度が減少したが、咀嚼性及び吸汁性昆虫と葉巻の密度に有意な違いは見られなかった。

以上のことから、全切葉処理は植物に補償成長を起こさせ、葉形質の改変を介して、葉食性昆虫群集の構成を変えている可能性が示唆された。

日本生態学会