| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 H1-06

適応的食物網の食物連鎖長

*二宮邦彦, 近藤倫生 (龍谷大・理工)

生物群集では、食う食われる関係が網の目のようにつながり、食物網と呼ばれるネットワークを形成している。食物網を特徴づける基本的な特性のひとつに、食物連鎖長がある。食物連鎖長とは、基底をなす種から頂点の捕食者までの栄養段階を結び付ける経路の数を指す。食物連鎖長(栄養段階の数)を知ることは、トロフィックカスケードや生物濃縮といった、生態系に見られる様々な現象を捉える上で重要なアプローチの一つである。さて、食物連鎖長に関して一つの未解決の論点がある。それは、一次生産者の生産力と食物連鎖長の間の関係である。一次生産者の生産力が高ければ、その生態系は多くの栄養段階を支えることができるので、食物網長は長くなるという理論予測がある。その一方で、実証研究においては、しばしば、生産性の食物連鎖長への影響は見られないという結果が報告されている。本発表では、生物が柔軟に餌生物を変化させるという仮定のもとで、生産性と食物網の長さの間にどのような関係が生まれるかを予測することを目的とする。従来の理論研究では、食物網の構造は固定化された繋がりとして仮定されていた。しかし、実際の生態系では、捕食者は適応的に餌生物を刻々と変化させるだろう。したがって、その時々で捕食・被食の相手が変わると考えられる。つまり、食物網には、多数の見えない潜在的な繋がりが存在しており、食物網に柔軟さを与えているといえる。この柔軟性の効果を評価するために、多種系のロトカ-ヴォルテラ式に、適応的餌選択のダイナミクスを加えて拡張した数理モデルを利用して、「適応的捕食行動」と「生産力」の食物連鎖長への相互作用を調べた。適応的捕食に由来する柔軟性の存在下では、生産力と食物連鎖長に関して、従来のものとは大きく異なる理論予測が得られ、これまでに実証研究で報告されているパターンをよりうまく説明できる可能性があることを報告する。

日本生態学会