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一般講演 H1-07
植物と訪花昆虫、あるいは植物と種子散布者がつくる相利関係ネットワークには、ネスト構造と呼ばれる特異な構造が見られる(Bascompte et al. 2003)。また、「ネスト構造は食物網では見られない」ことから、その成立メカニズムは、相利関係と関連すると考えられている。本発表では、従来の知見に反し、食物網でもネスト構造が見られることを報告し、その生態学的意義を考察する。ネスト構造とは、2層のネットワークにおいて、スペシャリストが相互作用する相手はジェネラリストが多いということを表している。思考実験によって、ネスト構造は、「動物が利用すべき餌植物を選択する」という単純な最適採餌のプロセスから生じる可能性があることが示される。もしも、最適採餌からネスト構造が生じるならば、動物が餌植物(花粉、果実、花蜜など)を利用する共生ネットワークのみならず、採餌のネットワークである食物網でも、ネスト構造は見られるはずだ。実際、寄生者と寄主のような2層からなる食物網を解析し、ネスト構造の有無を調べたところ、多くの食物網から、強いネスト構造が検出された。このことから、(1)ネスト構造が相利共生に特有のものだという仮説は否定され、さらに、(2)ネスト構造は相利関係からではなく、食う-食われるの関係から生じると言えるだろう。Bascompte et al. (2003)は、複雑な食物網から、2層のネットワークを再構成して解析しているが、その方法ははっきりしない。最適採餌からネスト構造が生じるためには、捕食者同士や餌同士がじゅうぶんに似ている必要があるが、恐らく、彼らの構成方法はこの条件を満たしていなかったと想像される。本研究において発見された食物網でのネスト構造が、本当に最適最餌によるものかは、いまだ断定はできない。今後は、より複雑な食物網のネスト構造の強弱を測る方法を模索していく必要がある。