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一般講演 H3-05

沖縄本島と慶良間列島におけるサンゴメタ個体群の危機

*酒井一彦,岩田幸一(琉球大・熱生研),向草世香(長崎大・生産科学)

サンゴ礁のサンゴ群集は、世界的に衰退を続けている。沖縄県においてもサンゴ群集は衰退傾向にあるが、地域間のサンゴ群集の状態の差が著しい。1998年の高水温によるサンゴの大規模白化後の死亡により、沖縄本島ではサンゴ群集の被度が80%程度減少した。一方沖縄本島の西30 kmに位置する慶良間列島では1998年に白化が起こったものの、サンゴの死亡率は低かった。また先島地域のサンゴ群集はよい状態を保っている。1999年から継続している野外調査から、以下のことを明らかとした。

(1) 大規模白化後、沖縄本島におけるサンゴ群集の復元力が大きく減衰した。(2) 放卵放精型サンゴについては、慶良間列島が沖縄本島への幼生供給のソース地域となっていた。(3) 沖縄本島におけるサンゴ群集復元力の減衰は、大規模白化後2年間にサンゴ幼生の加入量が著しく低下したことと、2001年に大量に加入したサンゴ幼生の生存率が低かったことによる。(4) 慶良間列島では幼生保育型サンゴの幼生加入量は多いものの、放卵放精型サンゴの幼生加入量は沖縄本島と同レベルであり、放卵放精型サンゴはself-seedingしていない。(5) 2002年から始まったオニヒトデ大発生により慶良間列島でサンゴが減少するにつれ、沖縄本島へのサンゴ幼生加入量が著しく減少した。(6) 幼生の分散距離が長いサンゴにおいても、先島地域と沖縄本島−慶良間列島地域は、異なるメタ個体群である可能性が高い。

これらのことから、沖縄本島−慶良間列島地域のサンゴ礁では、地球規模(温暖化)および地域規模(水質の悪化を介したオニヒトデの大発生)での環境変化の影響が短期間に強く作用し、サンゴメタ個体群が存続の危機に瀕していると言える。僅かに見られる「希望」についても議論したい。

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