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一般講演 H3-08

アリとアブラムシの両方のマイクロサテライトで追跡する共生関係の季節変化

八尾 泉(北大院・理・新自然史)

多くのアリ共生型アブラムシは同種の個体が集まり,コロニーを形成する。そこではコロニー内の個体間相互作用を通じて,集合性がもたらすコストとベネフィットが生じるだろう。このコストとベネフィットが個体一頭あたりに与える影響は,その個体が属しているコロニーが同一のクローンから構成されているのか,あるいは複数の遺伝子型のクローンが混ざっているのかによって大きく変わってくるだろう。さらに,アブラムシは植物篩管液に依存しているため,季節に伴う寄主植物の栄養劣化はコロニーの形成と絶滅に大きな影響を与えるだろう。一方,共生しているアリにとってもアブラムシの甘露は重要な餌資源であり,その質や量の変化に応じて効率的な採餌戦略を変更することが考えられる。本研究では,6本のカシワの木を定点サンプリング木として設定し,コロニー毎にアブラムシTuberculatus quercicolaと随伴アリFormica yessensisの両方をサンプリングし,それぞれ5つのmicrosatellite primerを用い,春と夏そして秋の遺伝的構造(クローン混合度,距離間遺伝的分化度,季節間遺伝的分化度(春夏間と夏秋間))を調べた。

結果は,1. 春のアブラムシコロニーは互いに異なるクローンから構成されており,全ての個体が同一のクローンというコロニーはなかった。クローン混合度は秋に向かって徐々に低下した。一方,コロニーに来ているアリも互いに遺伝子型が異なっていたが,この傾向は季節を通じて有意な変化は見られなかった。2.距離間遺伝的分化度は,アブラムシでは大きく,アリでは小さかった。季節間遺伝的分化度は,アブラムシでは春夏間と夏秋間共に非常に小さかった。一方,アリでは春夏間で大きく,夏秋間で小さかった。これは夏にアリの新成虫が出現し,それらがアブラムシの甘露採餌に加わったためと考えられる。

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