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一般講演 P1-002
一般に動物の交尾行動は雌雄双方の意思決定のもとに成立する.しかし,近年メスが交尾後も様々な手段で父性の調節が可能であることが明らかにされつつあり(cryptic female choice),交尾行動における雌雄間のコンフリクトはこれまで考えられてきた以上に大きいと見なされている.究極的なコンフリクトは交尾したメス体内に機能的精子を送り込めないことであり,これまでいくつかの研究で既交尾メス体内からオスの精子が見つからない例が報告されている.しかし,これら結果は単なる交尾の失敗として見なされるためか,詳しく解析されたことはない.イモゾウムシのオスは交尾の前後にメスのガードを行う.他のゾウムシ類と比べてそれらの時間は短く、交尾とガード行動はその姿勢による判別が容易なことから,本種では交尾行動の全体を詳細に観察することが可能である。また,それぞれの持続時間は雌雄の意思決定により決まるため,交尾行動と輸送精子数を調査することで雌雄のコンフリクトを明らかにする可能性がある.本研究では、イモゾウムシの交尾時間と交尾前後のガード持続時間,そして受け渡される精子数の関係を検討した。その結果、本種の交尾行動は非常に定型的だが、メスに受け渡される精子数の分散は非常に大きく(輸送精子数:47-11649)、精子が受け渡されない交尾行動もしばしば観察された。失敗した交尾行動の解析から,交尾前ガードが長いオスほどよく精子輸送に失敗するが、失敗した交尾の後でも定型的な交尾後ガードを行うことが明らかになった。また,交尾に成功した場合でも交尾時間と輸送精子数の間に相関が見られなかった.オスは定型的な行動を示すことから,オスが輸送精子数に応じてその後の行動を調節しているのではなく,メスが受容精子数を調節している可能性が示唆された.