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一般講演 P1-003

河口干潟におけるマメコブシガニの繁殖生態

小林哲(佐賀大学農学部)

短尾類に属するカニの繁殖生態の研究は,これまでワタリガニ科,クモガニ科,スナガニ科やイワガニ科,モクズガニ科など一部に集中し,他の科は少ないのが現状である.中でもコブシガニ科は情報が非常に乏しい.マメコブシガニPhilyra pisum (De Haan)も岩手以南の干潟に分布する普通種であるが,他の干潟産のカニに比べ生態に関する知見は非常に少ない.

2005年と2006年,福岡市多々良川河口干潟の潮間帯でマメコブシガニを採集し,行動を観察した.マメコブシガニは4月下旬〜9月中旬に潮間帯に出現し,それ以外は潮下帯に移動すると考えられた.8月までは0歳群(昨年夏〜秋着底)と,1歳+群の少なくとも2群が認められた.6月までに成体で出現しほとんど甲幅16mm以上の1歳+群では,抱卵個体は5月中旬から出現し,胚発生は7月にかけて進み孵化は6月下旬〜7月下旬に行われると考えられた.0歳群の雌は6月までは甲幅16mm以下の未成体で成長し,7月以降すべて成体(甲幅12mm以上)となり産卵を開始する.胚発生は7月上旬〜9月中旬に行われ,孵化は8〜9月に行われると考えられた.

潮間帯では多くの個体が単独で徘徊か休息中だったが,ガード(雌の後ろから雄が把握する)や交尾中のペアもみられた.交尾とガードは,雌の抱卵の有無に関係なく行われ,ガードは交尾より観察頻度がきわめて高かった.ペア個体の甲幅は正の相関があり,サイズ同形的交配の傾向が示された.飼育個体による交配実験では,雄は雌に強く拒絶されなければ,求愛行動なしにガードを始め(交尾前ガード),多くはその後数分以内で交尾を開始した.交尾は1〜2時間続き,そのあと再びガード態勢に入った(交尾後ガード).交尾後ガードは断続的に1日以上続くことも多かった.よって潮間帯で観察されるのはほとんどが交尾後ガードであると考えられた.

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