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一般講演 P1-006
近親交配はホモ接合度の増加を起こし、劣性有害遺伝子を発現させ、生まれた子の適応度を下げる近交弱勢を起こしうる。一方の性が近親交配を回避するとき、そのことがもう一方の性の繁殖戦略にも当然影響を与えると考えられる。例えば、メスが近親交配を回避する場合、オスにとって血縁関係にあるメスは、求愛などの配偶努力を投資しても交尾を受け入れてもらえにくいメスであると言える。オスの求愛などの配偶努力には時間またはエネルギー的なコストがかかる。実際にその生物にかかる近交弱勢の強さにもよるが、メスはこのような配偶努力を血縁の遠い個体に行うことで交尾成功をあげることができ、さらに生まれてくる子に近交弱勢が起きるのを防ぐことができるのかもしれない。一方の性が近親交配回避をするとき、他方の性がとる繁殖戦略についてはこれまでに調べられていない。
本研究では上記の予測を乱婚のノネコを用いて検証する。ノネコのメスは血縁度の高いオスとの交尾を避ける傾向にあることが明らかになっている。一方、オスの求愛には時間的なコストがかかるが、オスの配偶者選択は示されていない。血縁度の高いメスに求愛するよりも、血縁度の低いメスに求愛することで、オスは交尾を受け入れてもらえやすくなり、さらに生まれてきた子に近交弱勢が起こるのを防ぐことで自身の適応度を上げることができるだろう。本研究ではノネコのオスが血縁度の低いメスを選んで求愛しているかを野外における行動観察のデータを元に検証した。その結果、オスは有意に血縁度の低いメスによく求愛していることが明らかになった。