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一般講演 P1-007
生活史戦略の研究では、生物が生涯のどの時期にどのくらい繁殖に投資するのかを研究してきた。この視点は性選択の研究ではほとんど省みられてこなかった。これは研究上の枠組みとなる理論モデルが、個体の遺伝子型の違いに注目しているためである(遺伝子型は生涯でほとんど変化しない)。近年、性選択を受けている形質が生涯で変化するのかどうかを解明した研究が現れ始め、いくつかの分類群で配偶者選択が老齢期に低下する(相手を選ばなくなる)ことが示された。これは老化によって配偶者選択の能力が低下したためと推察されている。しかし、この結果は生活史戦略の研究でよく検証されてきた「期待余命が少なくなるほど、より繁殖に投資する方が適応的である」という予測と相反する結果である。これは老化という非適応的な現象によって、適応的な現象が覆い隠されてしまったためと考えられる。そこで、同齢雌間でも寿命に違いがあるということに着目し、スズムシを材料に、「期待余命が少ない雌ほど、繁殖に投資する」という予測を検証した。2種類の雄の鳴き声を再生し雌に選ばせるplayback実験によって、配偶者選択の構成成分である反応性と選好性を測定した。反応性とは鳴き声にどれだけ早く反応するかということであり、選好性とはどの鳴き声を選ぶかということである。その後、各雌の生存日数を記録し、配偶者選択と期待余命との関係を明らかにした。その結果、選好性には期待余命の影響は見られなかったが、反応性は期待余命の短い個体ほど高かった。また、期待余命の短い雌は配偶行動時以外でも活動性が高いのか検証するために、音声の無い状況で雌の活動性を測定したが、期待余命の影響は検出されなかった。