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一般講演 P1-012

単為生殖能力は性比を雌に偏らせるか?

*川津一隆(京大院・農),松浦健二(岡大院・環境),藤崎憲治(京大院・農)

多くの生物で1:1の性比が見られる理由はFisher(1930)によって初めて示されたが,例外も多数存在する.性比が1:1からずれるのには多くの理由があるが,親による投資の両性への分配という観点から見ると,適応度への寄与が息子と娘で異なっている,ということが挙げられる.

日本に広く分布するヤマトシロアリ属のReticulitermes speratusでも有翅虫性比が雌に偏る事が報告されている.本種は単為生殖能力を持ち、配偶に失敗しても雌だけによるコロニー創設が可能である.つまり単為生殖能力がある事で雌雄の繁殖成功度に違いが生じ,性比が雌に偏ることが考えられる.一方、別の原因でまず性比が雌に偏り、雌の配偶成功率が低下したことで単為生殖能力が進化した可能性も考えられる.このように有翅虫性比と単為生殖は正のフィードバックの関係にあり、その因果関係には議論の余地がある。もし、前者の仮説のように単為生殖が原因で性比を偏らせるのであれば、性比が雌に偏っている種は単為生殖をしていなければならない。

そこでこの2つの仮説を検証するため,日本に棲息する本属のR. amamianus, R. kanmonensis, R. miyatakei の単為生殖能力と有翅虫性比を調べた.雌の有翅虫のみでコロニー創設を行わせたところ,全ての種で処女産卵は見られたが卵は孵化せず,単為生殖能力がない事がわかった.また,有翅虫性比に関してはR. amamianus において有意に雌に偏っており,他の2種でも雌に偏る傾向が見られた.つまり,単為生殖をしなくても性比が雌に偏っている種が存在しており,単為生殖能力は有翅虫性比を雌に偏らせる必要条件ではないことが示された。よって進化的には、まず有翅虫性比が雌に偏り、これが単為生殖の進化にとって正の選択圧となったと推察される。

日本生態学会