| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨 |
一般講演 P1-015
左右相称動物における形態的左右非対称(左右性)は様々な分類群で発見されている。それにともなう行動の左右非対称性は脊椎動物では幅広く見出されているが、無脊椎動物における報告はきわめて少ない。左右性の一般性を知るために無脊椎動物にも脊椎動物と同様に形態と結びついた左右非対称性があるかどうかを調べることは重要である。本研究では特に甲殻類のアメリカザリガニを材料に、その形態的、行動的左右非対称性を解明した。その結果、アメリカザリガニの野外個体群の頭部形態において反対称的な左右非対称性が発見された。また、逃避行動を誘発する行動実験を行ったところ、逃避行動にも個体ごとに左に跳んだ回数と右に跳んだ回数がそれぞれ有意に異なるという反対称の非対称性が観察された。そしてその非対称性は形態で観察された左右非対称性と強く連関していた。この結果は、逃避行動という適応度に関する形質との連関が示されたことにより、この二型の維持に捕食−被食に関わる生態的要因が関与していることを意味する。
次にこの左右非対称性の遺伝性及び、付属肢を切除することによる表現型の可塑性の程度を調べた。その結果、この反対称的な左右二型が遺伝形質であることが強く示唆された。これらにより、甲殻類においても左右非対称性が存在することが示されただけでなく、その左右二型が群集内の種間相互作用によって各個体群内に保持されている可能性も示唆された。ザリガニ個体群及び群集におけるこの形質分布の動態を探るために、今後は非対称な形態・行動の至近要因・究極要因を精査していくことが必要である。