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一般講演 P1-016

安定同位体から探る在来型コイと移入型コイの食性と栄養段階

*松崎慎一郎(東大・農・日本学術振興会),馬渕浩司(東大・海洋研),高村典子(国立環境研究所),西田睦(東大・海洋研),鷲谷いづみ(東大・農)

日本に生息するコイCyprinus carpioには,体高の低い「野生型」と,体高の高い「飼育型」の2型があることが以前から知られていた.最近のDNAに基づく研究(Mabuchi et al. 2005など)により,日本の自然水域に生息するコイには,日本在来の系統(在来型)および国外から移入された系統(移入型)の2系統が存在すること,また「野生型」が在来型に,「飼育型」が移入型にほぼ対応することが明らかにされつつある.両者は内部形態においても異なっており,野生型は,飼育型に比べて鰓耙数が少なく,腸の長さが短い (Suzuki & Yamaguchi 1980).そこで本研究では,「在来型は、移入型に比べ動物食性が強い(栄養段階が高い)」という仮説を立てた.この仮説を検証するために,自然水界で採集したコイに対し,炭素窒素安定同位体比を測定し,遺伝的な型判別との照合を行った.

霞ケ浦(西浦・北浦)を対象に,4ヶ所の調査地点を設け,2ヶ月に1回の頻度でコイを定置網により採集した.採集したコイからDNA解析用に鰭の一部を,同位体解析用に筋肉の一部を採取した.なお遺伝的な型判別は,核DNAのITS領域における一塩基多型に基づき行なった.

一般線形モデルを用いて解析した結果,遺伝子型はコイの窒素同位体比に有意に影響していることが判明し,遺伝子型の効果は,地点によって違いがみられたが,2地点においては,仮説どおり,在来型の窒素安定同位体比は移入型に比べて約1‰高い値を示し,栄養段階が高いと推定された.本発表では,地点ごとの餌資源の同位体比も考慮しながら,食物網における在来型・移入型コイの生態的機能の違いについて議論したい.

日本生態学会