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一般講演 P1-019
冷温帯林における野ネズミの個体数密度は、ブナ林で知られるように結実豊凶に強く影響され年変動する。混交林では、結実の種間同調性や種子の栄養価の違いにより個体数変動はより複雑になる。また、個体数変動の程度はネズミの種間によっても異なっている。本研究では、種子の豊凶とその後の野ネズミ(アカネズミ・ヒメネズミ・ヤチネズミ)の個体数変動パターンとその要因を繁殖過程に注目して検討した。ネズミ捕獲調査は、トチノキ・ブナ・ミズナラなどが混交するカヌマ沢試験地(岩手県)で行った。生け捕り式トラップを格子状に設置し(2000‐2005年は64個、2006年は118個)、原則1ヶ月に1回、3日3晩連続で行った。捕獲したネズミは指切り法により標識し、種・性別・繁殖状態・体重を記録し、捕獲地点で放逐した。ネズミの個体数は、本試験地のブナ豊作翌年の2001・2006年に急増した。個体数レベルはその後、アカネズミ・ヒメネズミは2002年に激減したが、ヤチネズミは2003年まで維持し続けた。その他の樹種の結実は、トチノキは2000・2002・2004年に、ミズナラは2002・2004年に豊作であったが、これらの翌年にはネズミの個体数は増加しなかった。ネズミの反応と豊凶の関連は、アカネズミではブナ豊作年のみ秋繁殖がみられ、これが雌成体あたりの幼体数を増加させていた。またブナ豊作翌年では、直前の冬期生残率及び雌成体あたりの幼体数がアカネズミ・ヒメネズミで、また仔の生残率が3種類とも例年より高かった。一方、これらの傾向はトチノキ・ミズナラのみの豊作時にはみられなかった。ネズミの個体数変動はブナの豊作の影響を特に強く反映し、メカニズムとしては,成体の冬期生残率が高くなることで翌春に繁殖可能な個体が例年より増加し、さらに産仔数及び仔の生残率も高いことが挙げられる。