| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨 |
一般講演 P1-020
個体の行動、すなわち意思決定が個体群動態にまで大きな影響を及ぼすことは多くの種において知られており、これまで個体群の存続を理解するために個体の行動に注目した研究が多く行われてきた。各個体が周辺環境についてどれだけ情報をもっているかは、意思決定を行う際の大きな制限要因であるが、個体の採食環境についての情報の有無が個体群の存続に及ぼす影響については、これまでほとんど評価されてこなかった。
そこで本研究では、マガン(Anser albifrons)の空間分布を予測する個体ベースモデルを用いて、採食環境に対する情報の有無が個体群動態パラメータに与える影響を明らかにすることを目的とした。モデルは野外調査によって推定されたマガンの意思決定則に基づいて個体の分布を決定し、各個体の採食量から脂肪蓄積量を予測することで調査地に滞在中の死亡率を推定する。個体が(1)採食地の質についての完全な情報に基づいて採食地を決定する、(2)不完全な情報のもとで採食地を決定する、という2通りの前提をおいたモデルを構築し、それぞれで予測された脂肪蓄積量と死亡率を比較した。
モデルのシミュレーションにより、採食地の質について情報が不完全であるという前提をおいたモデルの方が、(1)脂肪蓄積量が少なく、(2)より多くの個体が餓死する、という結果が得られた。こういった個体の情報の有無による個体群動態パラメータの差は、特に生息地の環境収容力が低下したときに大きくなった。これらの結果により、個体の行動に基づいたモデルによって個体群の存続を理解する際、採食個体が持つ周辺環境に対する情報の程度を考慮することの重要性が示唆された。