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一般講演 P1-022
動物では一般に内臓の配置が左右反転した鏡像体は進化していない。その原因はまったくわかっていない。Gould et al. (1985) は、カタツムリCerion属の右巻(野生型)と左巻(変異型)では殻の形が異なることを発見し、発生の左右極性が反転するだけで他の形態形成が野生型と同様には進まなくなるからであると主張した。本研究は、1)左右極性の反転は他の形態形成を変更するのか 2)変更するならば、その原因は発生拘束(Gould et al.,1985)なのか、の問題に答える目的で行った。右巻と左巻が同一集団に共存するカタツムリAmphidromus atricallosusの殻の形態を右巻と左巻の間で比較した。本種では右巻と左巻は交尾できる。たとえ交尾できなくても、左右極性が遅滞遺伝する限り、右巻と左巻は同一の遺伝子プールを共有することがわかっている。本研究の結果、本種の右巻と左巻の殻は互いに鏡像対称ではないことがわかった。これは、たとえ形を決める量的遺伝子を共有していても、左右逆に成長するだけで異なる形になることを示唆する。もしこれが発生拘束によるなら、形を決める量的遺伝子が集団間でたとえ分化していても、右巻と左巻は集団によらず同じように異なるはずである。ところが、集団間では右巻と左巻の違い方に有意な差があった。この結果は、発生の左右極性が形に及ぼす効果は集団の遺伝的構造しだいで変わることを示す。以上のことから、左右極性の反転が形態形成を変更する原因は発生拘束ではなく、左右極性と集団の遺伝的構造(遺伝的背景)との相互作用であると考えられる。