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一般講演 P1-023

コアジサシの個体数変動が空間的に同調する範囲とそのメカニズム-分散と餌資源-

*森田博之,藤田剛,樋口広芳(東京大学・農・生物多様性科学)

コアジサシは、個体数減少が懸念されている渡り鳥で、砂浜や埋立地の工事用地といった不安定な裸地環境に集団営巣する。現在、その保全策として特定の営巣地を確保する活動が全国規模で進んでいる。しかし、同種には毎年同じ営巣地を利用する割合が低く、かつ、卵や雛の捕食などが起こると簡単に営巣地を放棄して他の場所に再営巣する特徴がある。このような定住性の低さから、現在進められている特定の営巣地の確保だけでは、効果的な保全は難しく、同種のような定住性の低い種を保全するためには、移動分散を考慮し、複数の営巣適地を維持するような面的な保全が必要であると考えられる。

ここでは2種類の移動分散を考えている。1つは、繁殖シーズン内で起きる再営巣にともなう分散である。もう1つは、翌年に越冬地から飛来する際に起きる、いわゆる出生分散と繁殖分散である。これらの分散に対応して、2つの保全範囲を提案することができる。1)ある営巣地の放棄が起きてもシーズン内の他の場所への移動で補えるように、再営巣が起こる範囲を保全範囲とする。2)年による総営巣数の変動を小さくし、保全効果の年変動をなくすため、年をまたぐ分散を含む範囲を保全範囲とする。これらを具体的に提案するためには、シーズン内の分散距離と年をまたぐ分散距離を推定する必要がある。

本研究では、約15年間分の全国営巣数調査のデータを2つの方法を用いて解析し、コアジサシのシーズン内分散距離と年をまたぐ分散距離を推定した。その結果、再営巣にともなうシーズン内の最大分散距離は約40kmであること、年をまたぐ最大分散距離は約90kmであり、半径60kmの範囲の総営巣数の年変動は比較的小さいことが分かった。

今後、この結果の信頼性を評価するとともに、これらの知見をもとに面的な保全がコアジサシ個体群動態に与える効果を定量的に評価して行きたいと考えている。

日本生態学会