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一般講演 P1-025

ブナ種子の豊作による野ネズミ個体群の変動メカニズム

*西友香理(新潟大・院・自然科学),箕口秀夫(新潟大・農)

ブナ種子豊作翌春に野ネズミが大発生することは多く報告されている.そのメカニズムとしては,秋季個体群の増加,秋季繁殖の遅延,越冬個体群の生存率上昇,春期繁殖の早期開始,さらに春期繁殖と秋季繁殖が重複した冬季繁殖などが考えられている.越冬期から翌年の大発生へとつながる変動メカニズムを明らかにするうえで,豊作当年の個体群動態の把握は重要である.そこで本研究では,ブナ種子豊作年における秋季個体群の増加,秋季繁殖の遅延,および越冬個体群の生存率上昇について検証した.

調査は,山形県小国町ブナ天然林に設けた1.08haの調査区で行った.本調査地では,ブナ種子落下量と野ネズミの個体群動態について,1990年から2006年まで継続調査が行われてきた.

ブナ種子落下量調査から,平米あたりの堅果落下量100個以上を豊作年,10個以上100個未満を並作年,そして10個未満を凶作年とした.本調査地において,豊,並,および凶作年はそれぞれ,4回,4回,および9回であった.

ブナ種子落下後の11月における野ネズミ捕獲調査のデータから,豊,並,および凶作年におけるヒメネズミ,アカネズミ,およびヤチネズミの個体数を比較した.その結果,アカネズミ成獣と幼・亜成獣において豊作年の個体数が多い傾向がみられた.また,豊,並,および凶作年の成獣,幼・亜成獣それぞれに占める繁殖状態の個体の割合を比較した結果,アカネズミ成獣について,豊作年における繁殖状態の割合が凶作年より高かった.ヒメネズミ幼・亜成獣♀およびアカネズミ幼・亜成獣については,豊作年のみ繁殖状態の個体が出現した.以上より,本来9月に生じる秋季繁殖が,豊作年では11月まで継続していることが示唆された.

一方,越冬個体群の生存率を示す値を算出したところ、ブナ種子量の豊作による生存率の上昇は認められなかった.

日本生態学会