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一般講演 P1-026

コテングコウモリのねぐら利用と社会

平川浩文(森林総研・北海道)

コテングコウモリMurina ussuriensisのねぐら利用を2005年7月後半、札幌市羊ヶ丘において調査した。1地点で捕獲した 4頭のメスに0.23 gの電波発信器をつけてねぐらを探索し、16のねぐらを見つけた。そのうち一つはササ藪内のササの葉(地上約120 cm)にあったが、他はすべて針葉樹または広葉樹の樹冠部にあった。樹冠部ねぐらの正確な場所は分からなかったが、樹洞ではなく、樹葉などの可能性が高いと判断された。この結果は、樹冠部よりササ藪内のねぐらを多く利用していた前年秋の観察結果とは大きく異なっていた。こうしたねぐら利用の違いは気温など季節の違いによると考えられた。これらのメスはねぐら場所を毎日変えていたが、連続したねぐら間の距離は短く、また個体同士が互いに近くにねぐらをとる傾向があった。特に、互いのねぐら間の距離が5 m以下になる場合があり、個体間に社会的結びつきがあることを強く示唆した。5 m以下でない場合でも偶然とは見なせないほど互いに近くで観察された。結果として、観察されたねぐら範囲も非常に狭かった。こうした結果は、これらのメスの間に社会的結びつきがあり、一定の狭い範囲にねぐら域を共有していることを示唆した。この社会集団は他にも多数の個体を含んでいると推測された。なぜなら、捕獲地点ではこの年、他にも多数のコテングコウモリが捕獲されており、4頭のその一部に過ぎなかったからである。今後、大規模な捕獲標識による個体識別・テレメトリ調査・遺伝解析などを組み合わせ、コテングコウモリ社会集団の大きさや構成,性格などを調べていく必要がある。これによって,コテングコウモリの社会の成り立ちを明らかにできるはずである。

日本生態学会