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一般講演 P1-030
近縁種間・遺伝的分化集団間の交雑帯の形成・維持機構に関する研究は陸上動植物では多いのに対し、海洋生態系における知見は極めて限られている。遡河回遊魚シロウオには黒潮系沿岸域に生息する太平洋型と対馬・津軽暖流系沿岸域に生息する日本海型という日本列島周辺の海流系に明瞭に対応した二つの地理的系統が存在する。さらに、これら二型の二つの分布接触帯は交雑帯となっており、一つは瀬戸内海系水と黒潮系水の接触域(紀伊水道・豊後水道)、もう一つは黒潮系水と親潮系水の接触域(常磐海域)に形成されている。これらの地域における日本海型mtDNAハプロタイプと太平洋型ハプロタイプの出現頻度はほぼ1:1である。
本研究では、大量の核ゲノムマーカー座を用いて二型の交雑帯における遺伝的構造を精査するとともに、そこに出現する交雑個体の表現型についても調査した。マイクロサテライトDNAマーカー7座を用いた集団構造解析を行ったところ、常磐交雑帯に出現する個体は純粋な太平洋型に近い遺伝的混合比を示したのに対し、瀬戸内海交雑帯に出現する個体の遺伝的混合比は日本海型に偏っていた。また、AFLP 432マーカー座を用いた解析の結果、常磐交雑帯と瀬戸内海交雑帯の間には大きな遺伝的差異が存在すること、これらの集団と二型との遺伝的差異は二型間の遺伝的差異に匹敵することが判明した。このように、シロウオには高度な遺伝的差異を持つ二つの雑種群が形成されていることが明らかになった。形態形質や繁殖生態などにおいても異所的な雑種群の間には固定した差異が認められ、さらに形質群として見れば、これら雑種群は純粋な日本海型/太平洋型とも異なっていた。以上の結果から、このような異所的な雑種群の遺伝的・表現型変異の成立要因について議論したい。