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一般講演 P1-035
北海道東部浦幌地域はヒグマ(Urusus arctos)による農作物被害や市街地への出没が深刻化している典型的な地域である.有害駆除を続けているにも関わらず被害が減少しない背景には,春から初夏にかけて繁殖期のオス成獣や母親から分散した亜成獣が他地域から流入し,農耕地や集落付近に出没することが一つの原因である可能性がある.そこで本研究では,1996‐2006年に浦幌町と周辺地域で駆除された個体からのDNA抽出物を用いて,マイクロサテライトマーカーの多型解析を用いたPopulation assignment test,およびmtDNAコントロール領域の多型解析から浦幌地域のヒグマ集団の遺伝的分化と集団間の遺伝的交流を明らかにした.
解析の結果,浦幌町と周辺地域のヒグマ集団には3つのクラスター(クラスター1〜3)の存在が示唆され,ヒグマが連続的に分布する白糠丘陵に2つのクラスターが認められた.クラスター1のメスは日高山系北東部から大雪山系南縁部に分布し,オスは日高山系北東部より白糠丘陵にかけて広く分布していた.クラスター2の両性は白糠丘陵の東部に分布していた.クラスター3の両性は白糠丘陵の西部に分布していた.MtDNA多型解析の結果,ハプロタイプHB2のメスは白糠丘陵の西に分布し,HB13のメスは白糠丘陵の北東に分布していた.HB2,HB13のオスは白糠丘陵全体に分布していた.クラスター2では両性でハプロタイプHB13が多かった(オス75%,メス66%).クラスター3ではメスはハプロタイプHB2が多く(84%),オスではハプロタイプHB2(61%),HB13(31%)の順で多かった.このことからクラスター2よりクラスター3への移動が示唆された.