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一般講演 P1-037
ヒグマ(Ursus arctos)の被害を管理し,また地域個体群を保全するためには,地域個体群の繁殖状況や遺伝的変異を明らかにすることが重要である。本研究では,北海道東部に位置する浦幌地域において,野外で回収したヒグマの体毛,および有害駆除された個体の試料から,マイクロサテライトマーカー16座位の多型解析による個体識別およびmtDNAコントロール領域の多型解析をおこない,その結果から血縁関係の解析を行った。
本研究の親子判定では,多型情報含有率(PIC),排他確率(PE),総合排他確率(Combined PE),Relatedness(rxy),固定指数(Fis),および個体識別確率(Pid, Pid-sib)を用いて,親子関係推定の信頼性を示した。親子関係または血縁関係の検討方法では,各遺伝子座の複対立遺伝子を比較し,個体間で共通の複対立遺伝子を共有していた場合,親子関係または血縁関係が否定されない組み合わせであると判断した。そして得られた性別,推定年齢,mtDNAコントロール領域の情報から,親子関係または近縁関係を選別し,家系図を描いた。
その結果,オス22頭,メス16頭の計38頭のうち,浦幌地域のオスには見られないハプロタイプHB13をもった3頭の移入オスと,浦幌地域で分布しているハプロタイプHB2をもつオス1頭が父親候補となる,6組の父子関係が検出された。家系図解析により,2つの血縁グループの存在が示唆された。mtDNAハプロタイプの北海道内の分布からは,浦幌地域では北東方向からの移入個体が父親になることが多いことが示唆された。
これらの研究を継続的に行うことにより,浦幌地域におけるヒグマの,詳細な繁殖状況の実態の把握や,この個体群の遺伝的状況など,ヒグマを保護管理していくための重要な情報を得ることができると考えられる。